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今年度(第35回)のSF大賞作品を読んでみた

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SFが、好きでよく読んでいるのですが(ガチ勢の人からすれば全然でしょうが)、偶然続けざまに読んでいた作品が、第35回SF大賞に選ばれていたので、レビューを書いてみます。


  
【 今年度(第35回)のSF大賞作品を読んでみた 】  
 1.My Humanity
 2.オービダルクラウド







checkmark.png 1.My Humanity



長谷敏司といえば、「円環少女」シリーズや、「あなたのための物語」などで有名な作家さんです。
今回受賞した「My Humanity」は、今まで書きためていたものの作品集になります。
収録されている話は、「地には豊穣」「allo,toi,toi」「HollowVision」「父たちの時間」全部で4話。
「地には豊穣」「allo,toi,toi」は、「あなたのための物語」で使われていた、経験を伝達する疑似神経制御言語ITPを軸に描かれている作品です。


「地には豊穣」は、前述の経験を脳の中に擬似的に構成することができるITPという技術を日本語にローカライズする研究者が主人公です。近未来でも英語圏での技術開発がメインで、日本人が脳の中で経験を構成するには、日本語ベースのローカライズが必要だからというもの。まぁ、大いにありうる設定かと。
その主人公は、英語圏で開発されている仕様を日本人に違和感なく利用できるようにするために、日本人のサンプルである協力者からデータを提供してもらったり、そのデータを元に作り出したミフネ(三船敏郎からとってる?)という疑似人格を使って、ローカライズするためのコードを書いています。
しかし、どうしても自分の帰属する文化というものから乖離していると感じていた主人公が、ある日、自分自身にミフネのITPを取り込み、日本人としての文化基盤の拠り所を獲得しようとしてしまうという物語でした。
この主人公が、ミフネを取り込んだあたりから、世界のものの見方が変わってくる様は、一体どこからが自分で、どこからが再構成された経験なのか判別がつかなくなってきます。個人の人格というものの境界は、どこからなのか?ということが問われています。まぁ、人格というものは、常に変化するものだと思っているので、別に気にならないといえば、気にならないのですが。ただし、技術がもたらす、人格に与える変化というものには、敏感でありたいなとは思いました。


「allo,toi,toi」は、小児性愛者を前述のITPによって、矯正するという物語。
絶望的な凶悪悪犯罪者収容施設に収監されている小児性愛者で殺人者だった主人公に、小児性愛を矯正するためのITPを入れる実験をするというもの。
ここまでくると、一種の洗脳に近いなと思わされます。「時計じかけのオレンジ」に近いような気もします。
最終的には、とても残酷な結末で終わるのですが、そこに至る過程が、どうにも救いようがないです。


「HollowVision」は、「BEATLESS」という作品のスピンオフらしいのですが、うーん、ちょっと楽しめなかったな。でも、液体コンピュータや霧状のコンピュータというのは、ありだな。実現性って面では、分からないけど。


「父たちの時間」は、霧状の放射性物質を取り除くためのナノマシンが、次第に人間達の制御を離れて行ってしまい、取り返しの付かない状況までいってしまうという話です。主人公は、そのナノマシンの制御を研究を仕事としているのですが、どうしても家族とうまくコミュニケーションをとれず、ついつい研究と仕事に没頭してしまうという人。
次第に自分が意図した方向とは違う方向に自分の研究が使われ、それが元でさらに事態が悪化していく様は、どんな仕事をしていても、あり得る話ですよね。
霧状のナノマシンが、対抗策を施すことによって、次第に(勝手に)進化していき、しまいには一つの生物として振る舞いを始めてしまうというくだりには、なんだか「パラサイト・イブ」を読んでいる感じになってしまいました。
また、自分の息子が、そのナノマシンによって原因不明の病気にかかり、余命幾ばくもなくなっていくということによる仕事との葛藤や、オスのもつ自然界での生殖後の意味のなさなど、多重の意味で「父たちの時間」というタイトルに収斂していきます。

この本の題名である「My Humanity」=「私の人間性」というのは、この4つの話全てに共通するテーマである「人間性とは、何なのか?」ということを突きつけるタイトルでした。SFが、面白いと思うのは、もちろん技術的な未来性を予言すること、ばかりではなく、その技術がもたらすことによる「人との関わり」をも内包することの面白さかな?と思いました。






checkmark.png 2.オービダルクラウド


この本については、以前の記事でも軽く触れています。

年末年始に読んで「おっ!」となった本5選 - 情報管理LOG


この作者は、AmazonのKindleが出始めの頃に話題になった「Gene Mapper -full build-」という作品の作者による2作目です。


「オービダルクラウド」の世界観としては、本当の近未来の設定になっています。
もしも、人工衛星が、一斉に使えなくなってしまったらどうなるか?
GPSが使えないことによって、飛行機が飛べなくなるばかりか、あらゆる交通機関が使えなくなります。さらに、明日の天気も分からなくなれば、どこの国で何をしているのかという軍事的な均衡も崩れてしまいます。
実は、我々の住んでいる技術的な基盤というのは、薄氷を踏むような薄い基盤の上に成り立っているのかもしれません。
主人公は、東京で流れ星の予想サイトをやっていて、コワーキングスペースで働いています。凄腕のエンジニアの女子がいたりと、ありうる設定かと。

この作品のすごさは、前述の人工衛星に対するテロの方法です。
キューブサットのような小型の超小型テザー衛星を大量に気球で打ち上げ(!)、それを群体で管理し、人工衛星にアタックをかけることで壊してしまうという手法です。
これは、とても恐ろしいことで、今ある技術の延長線で、さらに低金額で実現してしまいそうだというところです。

また、この本のテーマの一つに、エンジニアの地域格差と報われないエンジニアはどうすべきかがあります。
前述の主人公は、東京に住み何の疑問もなく、今の仕事をやっています。しかし、そのスペーステザーを考案したイランの研究者やテロリストの白石というJAXA崩れは、今の格差のある状況をテロによって覆そうとします。イランの研究者は、地域による格差を垣間見ることによって(すごい天才なのに)絶望の淵に立ってしまいます。また、JAXA崩れのテロリストは、自分の生き場所がもはや先進国にないので、北朝鮮に協力することで、後進国のエンジニアに救いの手を差しだそうとします。

低金額で先進国に対して、テロで一発逆転を狙うというのは、追い詰められた者の発想そのものです。以前、日本の技術者が、かなり流出しているというニュースがありましたが、追い詰められたエンジニアが目指すのは、自分の技術が生きる場所であるのです。

この作品そのものは、そういう背景の暗さはあるものの、一貫してライトな語り口で進んでいきます。かなり読みやすいし、読後感は悪くないですよ。






 eyeglass2.png 情報管理LOGの眼
 SFが見せてくれるものは、未来と人間の関係性かもね

もう少しライトに書評を書こうと思っていたら、思った以上に長くなってしまいました。書評ってムズイ。

私は、SFが好きでよく読みます。
テクニカルなものの未来を予言してくれるという、わくわく感も好きですが、そこから紡ぎ出される「人間とは何だろう?」という根本的な問いも好きです。
結局は、どんなにぶっ飛んだ設定であっても、根本的な問いが常についてくるような気がします。むしろ、SFという設定だからこそ、見えてくる部分ってあるよなと思うのです。

第35回SF大賞受賞おめでとうございます。
どちらの作品も楽しめますので、みなさんお時間のあるときにでも、どうぞ。




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